2011年6月10日
中央公論新社 819円
【はじめにより】
経営学全般を扱った書籍を開くと、必ずと言ってよいほど登場する言葉があります。まず、フレデリック・テイラーの科学的管理法、ヘンリー・フォードのフォード・システム、エルトン・メイヨーのホーソン実験、アンリ・ファヨールの管理原則、ダグラス・マグレガーのX理論・Y理論などがそれです。どれも経営学に欠かせない題材ではありますが、いかんせん19世紀後半から20世紀前半に成立した経営コンセプトばかりです。
では、ひるがえって、最新の経営思想はどうなっているのかと思い、経営学全般を扱った書籍のページをめくるとしましょう。少なからず肩すかしをくらうでしょうね。何も書かれていないわけではありません。ただ、一般には人事管理やリーダーシップ論、生産管理論、マーケティング論、財務管理論といった機能別解説になっています。
もちろんこれはこれで、現代の経営思想を解説する一手法ではあります。しかしながら、この説明方法だと、「どういう人物が、どういう主張をしたのか」という疑問には、なかなかうまく答えてくれません。古い経営理論については、「誰々の何々」という説明になっているのに、なぜ、時代が新しくなると、途端に機能別解説になるのでしょうか。不思議です。
こんなことをぼんやり考えながら、注目すべき現代の経営思想家とその考えについて、簡明に記した本があればいいだろうな、と私は思っていました。ですが、これはというものになかなか巡り会えません。ならば不肖、私が、と思い筆をとったのが本書です。
しかしです。アカデミックな経営学者でもない人物が書いた本など信頼できるのであろうか──。きっとこの本を手にとった多くの方が、こう考えるにちがいありません。
たしかに一介のもの書きである私は、経営学のアカデミックな立場からはほど遠い位置にいます。肩書きもありません。幸か不幸か賞罰もなしです。
とはいえ、私自身のことをもう少し説明しておきますと(これは決して自慢話ではありませんが)、たとえば、過去に執筆したある書籍は、日本最大のシンクタンクが中国(地方ではありません、国のほうです)でセミナーをする際に、テキストとして使うからと、大量購入してくださったことがあります。
また、私が過去に書いたビジネス書を、大学の先生が引用することはまずあり得ないとは思います。が、「××先生の研究室に行ったら中野さんの本が置いてあったよ」なんていう話は結構聞いていて、その筋の方々も陰では案外読んでくださっているようです。そういうと、私の友人の大学教授は、ゼミのテキストに私の本を使ってくれています。
さらにつけ加えると、過去に書いた作品で、中国、台湾、韓国で翻訳されたものは、累計で20冊近くあります。現在も6冊が翻訳中です。まあ、「それがどうしたの」と言われればそれまでなんですけれど。
このように肩書きのない者としては、自分の業績を列挙して、帰納的に「信頼できる人物」だと、皆さんに印象づけざるを得ません。このあたりは悲しい現実です。あとのご判断は皆さんにおまかせしましょう。
それはともかく、今回のこの本では、ピーター・ドラッカーを中心に、C・K・プラハラード、ヘンリー・ミンツバーグ、ジョン・コッター、マイケル・ポーター、フィリップ・コトラー、クレイトン・クリステンセンと、現代の経営思想家を語るうえではずせない人物を選びました。もちろん、この7人ですべてを語れるとは考えていません。が、彼らについて知っておけば、現代の経営思想の前線を、ざっくりとではありますが総括的に把握できると自負しております。
では早速、経営思想のカリスマたちに遭いに行くことにいたしましょう。
【目次】
第1章 マネジメントを発明した男──ピーター・ドラッカー
第2章 社会的コーズをマネジメントする──C・K・プラハラー
第3章 マネジャーの仕事に注目せ──ヘンリー・ミンツバーグ
第4章 組織には危機感が不可欠だ──ジョン・コッター
第5章 戦略論に革命を起こす──マイケル・ポーター
第6章 近代マーケティングの父──フィリップ・コトラー
第7章 イノベーションの仕組みを解明する──クレイトン・クリステンセン
【書評】