拙著『ドラッカー流最強の勉強法』を今回電子書籍として新たに出版するにあたり、AI時代の現代にふさわしくなるよう、大幅に改訂しました。
本稿ではドラッカーが実践した勉強法について検討し、生成AIの活用も視野に入れつつ、学習効果が上がる実践的手法について紹介したいと思います。

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第1話 「3カ月と3カ年勉強法」って何?

偉人の知的生産の方法ほど気になるものはありません。ほぼ96年の生涯をまっとうし、「20世紀の目撃者」「マネジメントを発明した男」とも呼ばれた経営学者ピーター・ドラッカーについても、同様のことがいえると思います。

図1:ピーター・ドラッカー(1909〜2005)

ドラッカーと継続学習

ドラッカーは、オーストリア=ハンガリー帝国の首都ウィーンで1909年11月19日に生まれました。そして2005年11月11日に鬼籍に入っています。

ほぼ96年の生涯において、ほとんど丸ごと20世紀を生きていることから、「20世紀の目撃者」と呼ばれることもあります。もっともそれよりも、「マネジメントを発明した男」や「マネジメント・グル」のように、ドラッカーといえば「マネジメント」という言葉が欠かせないでしょう。

ドラッカーが最初に著作を世に問うたのは1939年出版の『経済人の終わり』です。ドラッカーが30歳の時ですね。それからちょうど30年後の1969年、ドラッカーは還暦の年に『断絶の時代』という、現在読んでも読み応えがあるエポック・メーキングな本を出版しています。この30歳から還暦までの30年間にドラッカーが著した著作の数は11冊です。

一方、ドラッカーはほぼ96歳まで生きましたから、還暦を基準にするとさらに36年ほどの時間があります。実はこの間にドラッカーは、還暦までの30年間に出版した3倍近い数の著作を世に出しています。アンソロジーをいれるとその数はさらに大きくなるでしょう。

その中には、『マネジメント』(1973年)や『イノベーションと企業家精神』(1985年)、『ポスト資本主義社会』(1993年)、『ネクスト・ソサエティ』(2002年)など、ドラッカーの代表作も含まれています。このように、ドラッカーは還暦を過ぎてからの方が明らかに実り豊かだったことがわかります。

ここで疑問が浮かびます。ドラッカーが90歳を過ぎた高齢になってもまだ、執筆し続けようとする意欲は、いったいどこから来たのでしょうか?

この問いに対してドラッカーは「継続学習」の重要性を説きます。ドラッカーはこう言います。

まさに知識がこれからの経済の中心的な資源となります。それゆえに、継続学習は不可欠なものとなります。(中略)私たちは、知識社会においては、学習は一生のものであり、卒業とともに終わるものではないという事実を受け入れなければならなくなります。 (1)

要するにドラッカーは、生涯を通して継続的に学習することで、あの類い稀な成果を上げ続けたということです。では、具体的にどのような方法でドラッカーは継続的に学習していたのでしょうか。そのキーワードは「3カ月と3カ年勉強法 (2)」とでもいえる手法にあります。

「3カ月と3カ年勉強法」とは何か

「3カ月と3カ年勉強法」とはドラッカーが実践した学習方法で、3カ月および3カ年の勉強テーマを掲げて継続的に学習するというものです。具体的には次のとおりです。

まず、毎年新しいテーマを設定して3カ月間集中的に勉強します。これが3カ月テーマの勉強です。同時に3カ年をスパンとするテーマも掲げ、3カ月テーマの勉強と並行して学習します。これが3カ年テーマの勉強です。

ドラッカーは実際に取り上げた勉強テーマの例として、「明王朝時代の中国美術」や「シェークスピアの全集をゆっくり注意深く読み直すこと」「バルザックの代表作『人間喜劇』シリーズを読むこと」「15世紀から16世紀にかけてのヨーロッパ史」などを挙げています。

結果、ドラッカーは1年間に2本の勉強テーマをもっていたことになります。そして、ドラッカーはこの勉強法を、鬼籍に入る2005年まで70年以上も続けていました (3)。ドラッカーは言います。

この方法で私は、たくさんの知識を仕入れただけではありません。新しい体系や、新しいアプローチ、新しい手法を受け入れることができるようになったのです。 (4)

いかがでしょう。ドラッカーが最晩年まで意欲を持ち続けられた秘訣がこの「3カ月と3カ年勉強法」にあったことがわかるというものです。次回からは、この「3カ月と3カ年勉強法」をベースに、どのように学習するのが効果的なのか、ドラッカーの経験も踏まえて考えてみたいと思います。

(1) ピーター・ドラッカー、中内功『挑戦の時』(1995年、ダイヤモンド社)p.147
(2) 3カ月と3カ年勉強法 これはドラッカーの命名ではないものの、ピーター・ドラッカー『ドラッカー20世紀を生きて』(2005年、日本経済新聞社)p.18及びピーター・ドラッカー、中内功『創生の時』(1995年、ダイヤモンド社)p.36に掲載する内容に基づいている。
(3) 『創生の時』p.36にこの勉強法を「すでに60年以上」続けているとある。また、『ドラッカー20世紀を生きて』p.18は、2004年時のインタビューで、現在取り組んでいる勉強テーマの話をしている。『創生の時』の出版が1995年だから、ドラッカーが取り組んだ3カ月と3カ年勉強法の実践は「すでに70年以上」として問題ないだろう。
(4) 前掲『創生の時』p.36

第2話 勉強テーマはこうして決める

「3カ月と3カ年」を念頭に継続学習する──。ドラッカー流勉強法の基本方針はわかってもらえたと思います。では、具体的にどういう手順で勉強を進めていくべきでしょうか。今回は、「3カ月と3カ年勉強法」の4ステップと、その第1ステップである「勉強テーマを決める」について記したいと思います。

まず、「3カ月と3カ年勉強法」の全体見取り図を確認しておきましょう。大まかには次の4ステップで勉強を進めることになります。

①勉強テーマを決める
②勉強計画を立てる
③インプットする
④アウトプットする

つまり、3カ月または3カ年の勉強テーマを決め、計画を立て、情報をインプットし、成果をアウトプットするということです。あまりにも当たり前過ぎて書くに値しないでしょうか?

いえいえ、そんなことはありません。それぞれのステップを細かく検証していくと、いろいろ問題にすべき事項がでてきます。実際、以下にふれる「①勉強テーマを決める」について見るだけでも話題は極めて豊富です。

「3カ月と3カ年勉強法」の第一歩は、勉強テーマを決めることから始まります。テーマいかんによって、勉強が楽しくもなれば、また苦痛にもなるでしょう。さらに、価値のないテーマを設定したため、途中で勉強を放棄したとしたら、成果を得るどころか時間と労力の大きな損失になります。ですから、テーマは念入りに設定するに越したことはありません。実はこの勉強テーマ、基本となる決め方が存在します。次の3基準を念頭に決める方法です。

①強みで考える
②機会で考える
③価値観で考える
 (1)

上記3つの基準をクリアするものが、自分にとってふさわしい勉強テーマになります。以下、順に見ていきましょう。

勉強のテーマを考える上で、重視しなければならないもののひとつが「強み」、より丁寧に表現すると「自分の強み」です。人は意外に自分の強みを軽視しがちです。そして強みの強化よりも弱みを克服しようとします。

しかし、自分の弱みを活用して大きな成果を得られるでしょうか。大きな成果を得られるのは強みを生かした時だけです。これが真だとすると、自分の強みに焦点を合わせて勉強テーマを設定せよ、という結論が得られます。言い換えると、勉強テーマは自分の強みをさらに伸ばせるものであるべきだ、ということです。

ただし、弱みを克服することで、自分の強みを強化できるのであれば、弱みに着目することも悪くありません。いずれにせよ、自分の強みの強化に結びつく勉強テーマを設定すること、この点が重要になります。

次に、「機会」について考えるのも重要です。これは選択する勉強テーマが時代や潮流にマッチするかどうかという視点です。設定する勉強テーマが将来の機会にジャストミートするのであれば、今勉強しておくに越したことはありません。これは勉強の成果を「活かす」上でもとても重要です。

それからもうひとつ、「価値観」も重要な要素になります。これは設定する勉強テーマが自分にとって「面白いか」ということです。すなわち、そのテーマが自分にとって心から楽しめるものか、言い換えると自分の価値観に合致しているのか、この点を問うということです。

このように「強み」「機会」「価値観」に照らして勉強テーマを考えると、自分にふさわしいものが見つかるはずです。この中で、特に重視すべきなのが、実は最後に挙げた「価値観」です (2)

自分にとって面白いテーマは途中で投げ出す可能性も低くなり、粘り強く続けられます。この「続ける」ということが、自分の強みをより強化する重要なポイントになります。

つまり「面白い」と思うことは、自分の強みとも接続しており、それが将来の機会にも合致するのであれば、勉強テーマとしてふさわしいものになるはずです。

そういう意味で、「価値観」「強み」「機会」の順で、自分の勉強テーマを考えてみてください。

図2:「価値観」「強み」「機会」

(1)「強み」「機会」「価値観」 ジェームズ・コリンズは著作『ビジョナリーカンパニー2 飛躍の法則』(2001年、日経BP社)において、強い組織は、①自社が世界一になれる部分はどこか、②経済的原動力になるのは何か、③情熱をもって取り組めるものは何か、この3つが重なる部分に集中していると述べている。これは「強み」「機会」「価値観」の考え方と一致する。
(2)「価値観」です。 同様のことはドラッカーも述べている。詳しくはピーター・ドラッカー『明日を支配するもの』(1999年、ダイヤモンド社)p.211を参照されたい。

第3話 目標をマネジメントせよ

勉強テーマを設定するというのは、自らやるべきことを作り出す作業です。「何をするか」を決めることです。次に決めるべきは「どうするか」にほかなりません。これは「3カ月と3カ年勉強法」の第2ステップ「勉強計画を立てる」に相当します。このステップでまず重要になるのが、勉強テーマに関する目標を決めることです。今回はこの点について話を進めたいと思います。

ドラッカーは古くから目標の重要性を説き続けました。

目標は、運や命令ではなく、方向づけであり、公約であり、自己関与です。目標で未来が決まるのではなく、未来をつくるために資源とパワーを集中するための手段です。

ドラッカーは目標をこのように考えた上で、「目標と自己管理によるマネジメント(略称:目標管理)」を提唱しました (1)。これは自ら目標を掲げ、実行し、所期の期待と結果を比較し、それを次の目標にフィードバックするものです。この繰り返しで高い成果を目指します。手順を箇条書きで整理すると次のようになります。

①対象とする領域を明らかにする
②その領域での具体的な目標を明らかにする
③目標達成のための行動計画を立てる
④計画を念頭に実行する
⑤目標と結果を比較検討し、次の行動にフィードバックする

これと同じサイクルは、「3カ月と3カ年勉強法」をベースにした継続学習にも活かせます。①は勉強テーマの設定であり、このタスクはすでに済ませています。ですから、あとすべきことは②〜⑤であり、そのトップにくるのが目標の設定です。

目標の設定では、少なくとも次の2点を明らかにする必要があります。

(a)期限
(b)具体的成果

つまり、「いつまでに、何をアウトプットするのか」を具体的に示すこと、これが目標の設定あるいは明確化にほかなりません。

まず期限の設定からです。「3カ月と3カ年勉強法」の場合、この作業は割と簡単です。というのも、開始時期を決めれば自ずと終了時期すなわち期限は3カ月後、あるいは3年後に決まるからです。

むしろ難しいのは具体的成果を明確にする作業です。例えば私は「行動経済学」を勉強テーマにしたとします。これに対して成果が「行動経済学の概略を理解する」では、目標としてはあり得ても、ちょっと具体的成果とはいえません。具体的成果とは、できれば目に見えるものがベターです。それは手に持てるものであるとか、数字で表せるものです。

勉強あるいは学習に焦点を絞った場合、具体的な成果として最もオーソドックスな形態は、勉強テーマに関する文章化でしょう。文章化にも多様なタイプがあります。論文やレポートのような文字形式もそのひとつです。また、プレゼンテーション・ソフトを用いて、勉強した内容を整理することも考えられでしょう。

この具体的成果のイメージを明確にすること、この点がポイントになります。

思うに勉強が中途半端に終わるケースは、目標が具体的成果と結びついていない場合が多いようです。これは具体的成果を明確にせず勉強を始めると、成果がうやむやになるからでしょう。ですから目標は具体的な成果と結び付けることがとても重要です。この点は何度断言しても断言し過ぎではありません。

また、目標の達成度を高めるのにインセンティブを設けるのもオススメです。これは目標を達成したあかつきに手にできる、自分への贈り物です。例えば、前から欲しかったiPadを買う、というインセンティブはどうでしょう。これは勉強を終わりまでやり抜くための良い動機づけになると思います。

期限、具体的成果、インセンティブを明らかにできたら、次に必ず実行しなければならないことがあります。それは、明確にした目標を書きとめるということです。何かに書きとめておかないと、忘れてしまったり、自分に都合の良い目標にすり替えてしまったりするからです。一例を挙げておきましょう。

テーマ:行動経済学
開始日:20××年8月1日
終了予定日:20××年10月30日
目標:行動経済学の概要をひととおり理解する
期待成果:20〜30ページ程度のプレゼン資料に概要をとりまとめる
学習方法:関連書籍による
特別報酬:iPad(満足のいく成果をアウトプットできた場合のみ)

ここまでしっかり記述すれば、もはや言い訳はできません。目標を達成するもしないも、すべて自分の責任です。粛々と次のステップである「③目標達成のための行動計画を立てる」に進みましょう。

(1)目標と自己管理によるマネジメント こちらの方法ついてはピーター・ドラッカー『経営者の条件』(1966年、ダイヤモンド社)に詳しい。名著なので興味をもたれたら是非とも一読をおすすめしたい。

第4話 時間をマネジメントせよ

時間は万人に平等です。保存や移転もききません。極めて硬直的です。よって、計画を立てたり、立てた計画を実行したりする場合、この時間という資源を、いかに効率的に管理し活用するかが問題になります。そこで今回は、ドラッカーが提唱した時間マネジメント手法を概観するとともに、その手法を勉強計画に活かす方法について考えたいと思います。

ドラッカーは時間マネジメントの基本を、次のように3つのステップにとりまとめています。

①時間を記録し、分析する
②時間を管理する
③時間をまとめあげる (1)

このように、自分の時間の使い方を記録して分析するのが、ドラッカー流時間マネジメントの第一歩になります。これは自分の1〜2週間の行動を15〜30分刻みで記録し、それを分析するものです。

その際、時間の記録は記憶に頼らないことが重要です。記憶に頼ると事実が歪む可能性が高くなるため、リアルタイムで記録するのが必須です。

昨今はクラウドのカレンダーを誰もが普通に使用しています。これを使えば、移動中でも行動の記録を容易にとれますから、使わない手はないでしょう。

記録が取れたら、次に時間がどのように使われているかを検討します。これが時間の分析です。

この時間の分析では、効率の上がる時間帯と、逆にそうでない時間帯を特定することが重要になります。その上で、作業が効率的に進む時の背景にある要因について考えます。

私の場合、時間の記録と分析をやってみてわかったのは、昼食までの仕事の生産性が、そうでない場合よりも明らかに高いということでした。また、生産性が上がりそうで上がっていないのが午後3時台であることもわかりました。これを過ぎると夜まで、ある程度高いパフォーマンスで仕事を続けられます。

以来、時間の使い方を変えるようにしました。つまり「②時間の管理」です。具体的には、朝起きる時間を早めて、午前中に仕事ができる時間を増やすようにしました。また、午後3時前後には打合せを入れるとか、重要ではないけれどしなければならない仕事を入れるようにしました。

朝型は現在に至っても続いています。これが習慣になったのは、まさにドラッカーが勧める時間マネジメントを実行したお陰です。

効率が上がる時間帯は、時間の質が高いといえるでしょう。この時間帯を特定すると同時に、仕事の内容にも注目しなければなりません。

中でも重要なのが、非生産的活動に用いている時間の特定です。これらの活動は廃止も含めて検討しなければなりません。こちらも時間の分析と管理に相当します。

ドラッカーは、次の3つについて考えることで、非生産的活動を特定せよといいます。

①そもそも不必要な活動
②他の人でもできる活動
③他人の時間を浪費する活動 (2)

ここでは特に①に注目してみましょう。①の中で重要になるのは、本来する必要がないのに続けている活動の特定です。これを見つけ出して廃止すれば大きな時間の節約になるでしょう。

その際に「体系的廃棄」を実行すると大きな効果が期待できます。体系的廃棄とは、現在実行していることをやっていないと仮定し、今からでもそれをやるかどうかを検討します。そして、やらないと決めたら即刻廃止します。

記録した時間を眺めながら、不必要な活動、体系的廃棄ができる活動を考えてみましょう。これらを特定でき廃止できれば、手持ちの時間は大きく増えるはずです。

また、②についても適切な人にその役割を分担してもらえれば、使える時間はさらに増えます。加えて、③は周囲のメンバーに対する配慮です。周囲に配慮することで、自分自身も周囲から配慮してもらえることになるでしょう。

以上の活動で出来上がった時間をひとまとめにして、貴重な勉強時間として優先すべき学習に割り当てていきます。これが「③時間をまとめあげる」です。この点については引き続き次回にふれたいと思います。

(1)ピーター・ドラッカー『経営者の条件』(1966年、ダイヤモンド社)p.54
(2)同上p.70〜p.81「2 経営者の時間診断」

第5話 「何をしないか」を決めよ

ひとまとめにした時間には重要なタスクから順に割り振るのが基本です。これは、確保した勉強時間についても同様のことがいえます。

なんとか捻出した勉強時間に、優先順位の低い事項を割り振っていても仕方がありません。すべきことを列挙して、これに優先順位を付けて、優先順位の高いものから順に時間を割り振ります。これにより、目標達成に向けた計画が出来上がります。つまり、次にすべきことは目標達成のための計画作りです。

具体例で考えてみましょう。第3話で掲げた目標を思い出してください。念のために再掲します。

テーマ:行動経済学
開始日:20××年8月1日
終了予定日:20××年10月30日
目標:行動経済学の概要をひととおり理解する
期待成果:20〜30ページ程度のプレゼン資料に概要をとりまとめる
学習方法:関連書籍による
特別報酬:iPad(満足のいく成果をアウトプットできた場合のみ)

では、目標達成のために実行すべきことを考えてみましょう。手元には行動経済学の資料がまったくありません。よって、まず、関連書籍の収集から始めなければなりません。

次に集めた資料の読み込みです。書籍を1冊だけ読んで、行動経済学の概要を知ろうなどという虫のいい計画ではいけません。できれば10冊、少なくとも4〜5冊は読み込むことが重要です。このあたりについては第6話で詳しく取り上げます。

資料の読み込みは情報のインプットです。それに続いてアウトプットが必要になります。例に掲げているケースでは、20〜30ページ程度のプレゼン資料がそれに相当します。

このように、大まかには「資料収集→資料の読み込み→プレゼン資料作成」が、今回の目標達成のために実行すべきこと、つまり「トゥ・ドゥ(TD)」になります。

TDがリストアップできたら、内容の重要性と時間の先行性を考慮して、リストアップしたTDに優先順位を付けます。これを第4話で確保した勉強時間に割り振ることで計画を立てられます。

このように考えると、計画作りとは「選択」にほかなりません。そもそもTDを明らかにすべきこと自体が選択です。また、TDに優先順位を付けて、勉強時間に割り振っていくことも選択にほかなりません。

またこれは言い換えると、選択とは、選択しないことを決めることです。なぜなら、「今実行すべきこと」を決めることは、「今実行すべきでないこと (1)」を決めることでもあるからです。

もっとも、知識ゼロの分野を勉強テーマに選んだ場合、そもそも何をすべきか皆目見当がつかない場合もあるでしょう。これでは勉強計画を立てるのも困難です。そこで登場するのが、いまや知的生産の強い味方になった生成AIの活用です。

例えば、生成AIで最もポピュラーなChatGPTに次のような質問(プロンプト)を投げてみましょう。

「私は行動経済学に関する知識はゼロですが、10週間で行動経済学の概要に関する知識を得たいと思っています。そして残りの3週間で勉強した内容をレポートまたはプレゼン資料としてまとめたいと思っています。この目標を達成するための、最適なカリキュラムを提案してください。」

するとAIは、13週間で取り組むべきオススメのカリキュラムを瞬時に提案してくれます。以下は実際に右のプロンプトに対してChatGPTが返してきた回答の概略です。

全体構成(13週間)
 【第1〜10週:学習フェーズカリキュラム】
  ◆第1週 行動経済学の地図をつかむ
  ◆第2週 プロスペクト理論
  ◆第3週 ヒューリスティックスとバイアス
  ◆第4週 時間選好とセルフコントロール
  ◆第5週 社会選好:公平性・利他性・互恵性
  ◆第6週 ナッジ理論(Thaler & Sunstein)
  ◆第7週 市場・組織への応用
  ◆第8週 公共政策と行動経済学
  ◆第9週 批判・限界・反論
  ◆第10週 体系的まとめ(ここで一度、全体を統合)
 【第11〜13週:まとめフェーズ(レポート/プレゼン)】
  ◆第11週 構成案づくり(台割・目次)
  ◆第12週 ドラフト執筆 or スライド作成
  ◆第13週 仕上げ(推敲・図の洗練)

ここでは割愛しましたが、各週の小項目には学習の目的や学ぶ内容、教材の指示など細部にわたる項目をAIは示してくれました。これはAIが行動経済学について「何を学ぶべきか」、その重要項目(TD)をリストアップしてくれているばかりか、時間配分にまだ落とし込んでくれた、具体的勉強計画の提案にほかなりません。

いずれにせよ、ここで示した一例からもわかるように、生成AIの計画力はかなり強力です。これを有力な武器として使わない手はないと思います。

AIは私たちの言葉を本当に理解しているのか? なかなか深い問題ですが、みなさんはどのように考えますか。

(1)) 今実行すべきでないこと ドラッカーは実行しないことを決めるのが最も困難な作業だと述べている。詳しくはピーター・ドラッカー『経営者の条件』(1966年、ダイヤモンド社)p.204を参照。

第6話 徹底的にインプットせよ

未知の分野について知ろうと思えば、すべきことはやはり徹底的に情報を収集すること、つまり情報のインプットです。

その際のメインとなる活動が書籍からの情報収集でしょう。また、生成AIが普及しつつある現在、情報をAIから引き出すことも、今後一般的になると思います。今回は読書やAIについて検討しながら、効果的な情報のインプットについて考えてみたいと思います。

まず、本とドラッカーの関係について見ると、そもそもドラッカーは小さい頃から、極めて多くの本を読んだようです。ドラッカーのこの習慣は終生変わらなかったようです。

ある人がドラッカーに、「暇な時は何をされているのですか?」と尋ねたことがあります。これに対してドラッカーは次のように答えました。

暇な時なんていうものは存在しないのだよ。私の場合、仕事をしていなければたくさん本を読む。きちんと計画を立てて、それに従って集中的にね。 (1)

これはドラッカーが94歳の時の言葉ですから、いやはや脱帽するほかありません。

前回も若干触れましたが、何か一つの分野を浅くでも理解しようと思えば、最低でもその分野に関する4〜5冊の本を読みたいところです。

これらの本を読むのには、ちょっとしたテクニックがあります。まず、目次を見てその本の概要について理解します。その際に、この本の重点がどこにあるのかあたりをつけます。あとは、そのあたりに従って、重要だと思う箇所を集中して読みます。

最初は当たり外れがあるかもしれません。ただ、この読み方を続けていくと、かなり速いスピードで本を読めるようになります。

またその際に、マーカーと付せんを大いに活用すべきです。マーカーは、ここだと思う重要個所に線を引くためのものです。そして、マーカーを引きながら何か思うところがあれば、ページの余白にメモします。

また、マーカーやメモつけた個所には必ず付せんを貼ります。お勧めは、セロハンをやや厚くした半透明の付せんです。透きとおっているため文字の上に付せんを貼り込んでも、はがさずに読める利点があります。

このマーカーと付せんには、少なくとも2つの効果があります。

まず、マーカーをつけた情報に関する記憶をより鮮明にできる効果です。重要な個所をマーカーで目立たせるというのは、マーカーを引きながらその個所を再度読むことにほかなりません。当然、一度だけ読むより記憶の定着が良くなります。

さらに、本を読み終えたら、このマーカーを引いた場所だけ読み返すことで、記憶をより強化できます。その際に威力を発揮するのが付せんです。

マーカーをつけた箇所に付せんをはっておけば、その場所にすぐ行けます。ですから、貼った付せんを頼りにすれば、マーカーを付けた箇所を容易に読み返せるわけです。

もっとも、本を読むといっても、自分の勉強テーマ、そして自分のレベルに応じた本を選ぶことから始めなければなりません。選択したテーマが未知の分野であるほど、本選びには困るはずです。

その際にも、やはり頼りになるのはAIです。ChatGPTに「行動経済学の入門書でオススメの本を教えて」と質問してみましょう。たちどころに、ダニエル・カーネマンやダン・アリエリー、リチャード・セイラーなど、行動経済学の必読書をピックアップしてくれます。

図3:ChatGPTへの質問と回答

また今後は、AIを教師代わりにして勉強する人が増えるに違いありません。これは極端な話、行動経済学など何かのテーマに関して知識ゼロの状態から勉強する場合、教科書など一切使わずいきなりAIに問いかけて知識をインプットする勉強方法が成立する可能性が十分あり得るということです(もちろん知識を深めるのに読書は必須なのですが)。

前回ふれたように、すでに私たちはAIを用いて勉強計画(カリキュラム)を立てました。続けてこのカリキュラムに従って、各項目それぞれについて、AIに質問しながら知識を深めていく方法が考えられるでしょう。

その際の学びのプロセスについて考えてみると、基本は①問いを立てる→②答えを引き出す→③再質問する→④理解を確認する→⑤自分の言葉でまとめる、となるでしょう。AIは私たちの自習にまさにうってつけの相手です。

このように考えると、今後、勉強でのAIの活用は常識になると考えてよいと思います。否、ドラッカー風にいうと、すでに「新しい現実」として常識になっているのかもしれません。

(1)ピーター・ドラッカー『ドラッカー20世紀を生きて』(2005年、日本経済新聞社)p.21

第7話 勉強の成果はアウトプットで決まる

勉強テーマに関する情報を徹底的にインプットしたら、今度は情熱をアウトプットに傾けなければなりません。今回設定した目標では「期待成果」として、「20〜30ページ程度のプレゼン資料に行動経済学の概要をとりまとめる」としました。最終回の今回は、勉強した内容をプレゼン資料やレポートとしてアウトプットする、その効果的な方法について考えてみたいと思います。

本稿の第1話で、ドラッカーは還暦以前の30年よりも、還暦後の30年のほうが、多くの著作を世に出していると述べました。この事実を前にして気になるのは、ドラッカーには独自の執筆法があったのではないかという点です。

ドラッカーは著作『ドラッカー20世紀を生きて』の中で、自身の執筆方法について、ほんの少しだけふれている個所があります。これはドラッカーの創作の秘密を知る上で、極めて貴重な個所といえるでしょう。ドラッカーはこう述べています。

まず手書きで全体像を描き、それをもとに口述で考えをテープに録音する。次にタイプライターで初稿を書く。通常は初稿と第二稿は捨て、第三稿で完成。要は、第三稿まで手書き、口述、タイプの繰り返しだ。これが一番速い。 (1)

ドラッカーのこの執筆手法をそのまま実行すれば素晴らしいアウトプットができるとは限りません。ただ、ドラッカーの手法からぜひ学ばなければならないことがいくつかあります。そのひとつが「まず手書きで全体像を描く」という点です。

わかりやすい文章では、あらかじめ全体像を俯瞰し、その後各論に進むものです。いわば、鳥の眼で全体を見渡し、その後虫の眼で詳細を吟味する話の進め方です。読み手は進むべき道があらかじめ把握できますから迷子になりにくいメリットがあります。

同様のことは文章を書く際にもいえます。最初にアウトプットする文書の全体像を描き、そのあと細部を詰めていく方法です。これがドラッカーの言う「まず手書きで全体像を描く」です。これは書き手にとって自分が最終的にどこに向かうのかを示す地図を作ることに相当します。

文書の場合、全体像を示す最も簡単なものは目次です。また、目次をもう少し詳しくしたアウトラインも全体像を示したもののひとつです。私は書籍を書く場合、必ずアウトラインを作ります。

例えば、行動経済学について勉強してきたことを「ビジネスに活かす行動経済学」というタイトルで取りまとめるとしましょう。この場合、勉強成果を念頭に、例えば次のような構成すなわち全体像を考えてみます。

●タイトル:ビジネスに活かす行動経済学
●概要:行動経済学の知見を具体的なビジネスシーンでいかに活かすかを示す
●構成:
 1. 序章 行動経済学とは何か
  1−1 従来型経済学との違い
  1−2 「非合理」ではなく「限定合理」
  1−3 行動経済学が注目される理由
 2. 主要理論とキーワード
  2-1 プロスペクト理論(カーネマン&トヴェルスキー)
  2-2 アンカリング効果
  2-3 フレーミング効果
  2-4 ナッジ理論(セイラー&サンスティーン)
  2-5 社会的証明・同調バイアス
  2-6 メンタル・アカウンティング(心の会計)
 3. ビジネスへの応用
  3-1 マーケティング戦略における行動経済
  3-2 事例① スターバックスの限定商品のフレーミング
  3-3 営業・プレゼンテーションでの応用
  3-4 事例② AmazonのB to B
  3-5 人事・マネジメントにおける応用
  3-6 事例③ リクルートの社内行動変革施策
  3-7 顧客体験(CX)・サービスデザインへの応用
  3-8 事例④ 英国BITの行動インサイト・チーム
 4. まとめと展望

現状は目次レベルですが、各節に2〜3行の内容説明を加え、書くべき項目を列挙すれば、私がアウトラインと呼んでいるものに変化します。

まず、このような目次あるいはアウトラインを用意して全体像を描き、そのあと各項目について書き進めていきます。こうすれば、途中で「迷子」になることも断然少なくなるはずです。

アウトラインが出来上がったら、インプットした情報を再確認しながら各項目に書くべき小項目をリストアップしていきます。その際に、再度、勉強した本の付せんを頼りにマーカーを付けた箇所やノートを再読し、各項目に書くべき内容を押とし込んでいくと執筆が円滑に進みます。

その際に、「序章」から始めて、「1-1」「1-2」とリニアで進めていく必要はありません。小項目をリストアップしやすい箇所、書きやすい項目から先に進めて何ら問題ありません。つまりノンリニアに書き進める流儀です。ノンリニアであっても、アウトラインがしっかりしていれば、重複や時間順序の逆転など、書いている途中での「迷子」は避けられます。

また、文章化の際にAIの力を借りることも考えられます。いまや生成AIにとって文章化などお手のものです。ただし、AIの記述はあくまでも「素材」であり、「判断」や「価値づけ」までAIに委ねず、最終的に自分で考え自分で書くことが大切です。

そもそも最初からAIに丸投げするのであるのならば、勉強などする必要はないわけです。勉強しなくても、AIが知っているのですから。あとはそれを盗めばいいわけです。

このように考えると、アウトプットは独力で勉強した内容を、自分自身の理解として「見える化」する作業にほかなりません。独力で「見える化」したアウトプットには必ずや達成感があるはずです。その達成感は新たな勉強テーマ設定の強い動機づけになるはずです。

この強い動機づけこそが、3カ月と3カ年勉強法を継続する原動力にきっとなるはずです。

(1)ピーター・ドラッカー『ドラッカー20世紀を生きて』(2005年、日本経済新聞社)p.18

※ ※ ※

この特集記事で紹介した内容は、拙著『ドラッカー流最強の勉強法【AI対応版】』でより詳しく解説しています。もっと詳しく知りたいという方は是非ともご一読ください。